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090から始まる見知らぬ番号。電話に出た27歳目黒OLが体験した禁断の夜

書かれた 沿って mobilephonebrand

夏・第八夜「初恋の男」

見知らぬ番号からスマホに着信があったのは、月曜の昼休みだった。

― 090から始まるってことは携帯…あ、もしかして!

私はピンときた。昨日の夜、小学校のZoom同窓会の学年代表幹事に決まって、メッセージグループ内で私の携帯番号を載せた。

タイミングからして、きっとあれを見て誰かがかけてきたのだろう。SNSでつながっているけど、携帯番号は登録していない人がほとんどだ。

「はいもしもし、海江田美波です」

幹事を意識して、なるべくはっきりと明るく名乗った。

「海江田美波ちゃん…?あの、こんにちは…久しぶりだね、僕、ショウだよ」

「ショウ…?えと…」

正田、昇平、将司…ショウと名乗りそうな名前が頭をかけめぐる。

「あの、三田小の同窓会のことかな?ごめんなさい、久しぶりすぎて声がわからなくて…」

その時、唐突に、すぐ近くに住んでいていた幼馴染の顔が思い浮かんだ。翔太。山本翔太。

「ショウって、もしかして…5年生のときに転校しちゃった、山本翔太…くん!?」

「…わかってくれたんだね。美波ちゃんなら思い出してくれると思った」

電話の向こうで、ホッとしている彼の空気が伝わってくる。

その時、休憩終了を告げる13時のアラームがアップルウォッチからピピッとなった。

「あ!大変、ごめんなさい私仕事に戻らないと。えーと、どうしよ。もしよかったらFacebookで探してくれる?同窓会関連のこと、そこに掲載してるんだ、つながったらメッセンジャーできるから連絡とりあおう」

「うん、了解、すぐ探してみる。俺、Facebook完全放置なんだけど…久々にログインしてみるわ。じゃあ美波ちゃん、また。俺の番号、登録しておいてくれる?」

私は、少しだけドキドキしながら電話を切ると、緩んだ頬を抑えて仕事に戻った。

思わぬ再会に浮かれる美波。そして事態は予想外の方向に…?

早速、翔太からFacebookで友達申請がきて、私たちはやり取りをするようになった。

『美波ちゃん、昨日はありがとう!思い出してくれて嬉しかったよ。承認してもらってから告知してる同窓会の詳細も見たよ。幹事なんだね』

『メッセージありがとう。それにしてもびっくりした。11歳以来だから…16年ぶり!?どうやって同窓会のこと知ったの?男子たちと連絡とってるの?』

『うん、ほら、もう一人幹事してる太一とはおふくろ同士がまだつながっててさ。そっち経由で小学校の話になったらしくて、同窓会のことと幹事の美波ちゃんの連絡先教えてもらったんだ。それより美波ちゃん、インスタもみたよ、すっかりキレイになっててびっくりした』

メッセージをやり取りしていて、私はこそばゆい気持ちになる。

翔太は、何を隠そう私の初恋の人なのだ。

彼は、すごく目立つ、というタイプじゃなかったけれど、背がひょろりと高くとびきり優しくて、二人とも本が好きで。本の話をしながら登下校でするのが密かな楽しみだった。

昔から単純な私は、そんなことで好きになっちゃうものなのだ。

でも急に翔太が転校することが決まり、もちろんマンガみたいに告白なんてできないまま、疎遠になってしまった。

『翔太くん、今どこに住んでるの?同窓会は参加できる?』

昨日、友達リクエストをもらってすぐに承認し、翔太のページに行ってみたが、本当に放置しているらしく、アイコンも海の写真で、投稿はなく顔を見ることはできなかった。

プロフィールからわかったのは、早稲田大学政治経済学部卒、金融機関勤めということと、サーフィンが趣味ということだった。そこはぬかりなくチェックしたので間違いない。

『7月23日だよね?悪い、その日は外せない先約があって。でも終わり次第ログインするよ!最近まで仕事で海外にいたんだけど、戻ってきてからは、目黒に住んでるんだ』

『え!一緒!私も。どこらへん?私は大鳥神社のあたりだよ』

『インスタで、昨日美波ちゃんが投稿してた焼き鳥屋さんの近く。俺もあの店まで10分くらい』

『ほんとに?すごい偶然…!』

私は部屋で思わずにやにやしながら独り言を言ってしまった。ツイてる。これは波がキテる。

丸の内でOLになり4年目の昨年。さあこれから婚活!と気合いを入れたところで、一気に在宅ワークが進み、週に1・2回出社すればいいほう、お食事会もなくなった。

出会いを求めて動いてみても、なかなか前のようにはいかない。こんなことなら元カレと別れなければよかったな…とウツウツとしていた私にとって、久しぶりに浮き立つ出来事だった。

『じゃあ、せっかくだし会社帰りにさくっとごはんでもどう?』

『いいね!近所にいい店見つけたんだ、予約しとく。でも俺、けっこう変わっちゃったからな、美波ちゃんわからないかも。幻滅されそう。笑』

『しないしない。私のほうこそだよ…なんか緊張しちゃうなあ』

― もしかしていい雰囲気になっちゃったりして…?

私は思いがけない展開が嬉しくて、また一人でテンションが上がり、無駄に気合をいれてエクササイズした。

ついに再会の夜。そこには16年ぶりに会う、初恋の男がいた。そして事態は予想外の展開に…?

― あ、もしかして、あれが翔太くん…!?

金曜日、定時に仕事を上げて、目黒のバルに地図を頼りにたどりついてドアを開けた瞬間、カウンターに座っている男性と視線がぶつかった。

スーツ姿がさわやかだ。少し茶色い髪、ツーブロックのヘアスタイルがこなれている。私を見ると、照れたように笑いかけてきた。翔太に違いない。

090から始まる見知らぬ番号。電話に出た27歳目黒OLが体験した禁断の夜

「久しぶり…!美波?実物もめっちゃ可愛い。大きくなったなあ、ってヘンだよな」

「うん、本当に久しぶり…翔太、元気にしてた?」

私たちはお互い小学校時代の呼び方になり、でもしきりに照れながら、挨拶を交わした。小さい頃は飽きるほど毎日一緒だったけれど、男の人になった翔太とは初対面。

距離感がわからなくて、えへへ、と照れ隠しに笑ってみる。

もじもじしている雰囲気を打ち破ったのは、意外な人物だった。少し離れた席に座っていたスーツ姿の男性が、翔太に気がついて話しかけてきたのだ。

「あれ!?翔太、会社帰り?おまえんちこの近くだもんな。あ、どうも、翔太の友達の浩平です。ってごめん、デートに割りこんじゃまずいよな」

「お!浩平か、お前も会社の帰り?いや、あの、デートっていうか、こちら美波さん、俺の幼馴染なんだ」

「ああ!この前言ってた、小学校時代の初恋の子とSNSで再会できたってやつか。どうも、浩平です。翔太の同僚で」

私はその友達の一言に内心大いに動揺して「はじめまして、美波です」と平静を装うのに必死だった。

― 初恋。初恋って言った。もしかして、翔太も私のこと…?

たぶん、私は赤くなっていたと思う。

生返事をしているうちに、浩平は私たちに交じって話し始めていた。翔太と二人きりだと、久しぶりすぎてなにを話したらいいのかわからなかったので、ちょっぴりほっとした。

それに、急に二人きりになるよりも、翔太の今をよく知る人から話を聞くほうが、大人になった彼をより深く理解できるような気がした。

私は次第に緊張も忘れ、おしゃべりに夢中になっていた。

「あ〜まだ20時、ぜんぜんしゃべり足りないよ。おまけにこのゲリラ豪雨…参ったな。タクシーも捕まらない」

お店を出ると、大粒の雨がザーザーと降っていた。雨宿りをしたかったけれど、もうどこのお店も閉まっている。

「まいったなあ。ほんの1時間くらいでいいから、どこか寄れるとこないかな」

「…えと、じゃあ二人ともうちで雨宿りする?実は、私のマンションすぐそこなの。翔太の家だとここから15分くらいかかっちゃうでしょ?1階の共用スペースにソファもあるから、雨宿りしていって」

再会の時間が、あまりにも楽しかったからかもしれない。私は思わず店の軒先でスーツをみるみる濡らす二人にそう提案していた。

「え、ほんとに!?助かるよ美波!」

そこから100mほどの我が家まで、3人でダッシュした。駆け込んだけれど、スーツもワンピースもずぶ濡れだ。

「へえ…これが美波のマンションか」

翔太が観察するようにエントランスを見回した。

「タオルとコーヒー持ってくるから、そこにいてね。何かあったら306押して」

私はそう声をかけると、急いで3階に上がって部屋に飛び込んだ。

びしょびしょのワンピースを脱いで、さっとカジュアルなシャツワンピを着ると、どこかにメンズサイズのTシャツでもなかったかとクローゼットを探す。

その時、夕方から放っておいたスマホに通知があることに気づき、熱いコーヒーを淹れるためお湯を沸かしながらタップする。

するとそれは、小学校の同級生、太一からのメッセージだった。

『美波、幹事ありがとう!ところで、この前言ってた翔太、参加できないんだよな?』

『うん、でももしかしたら途中から参加できるかもって。あれ?太一、翔太と直でつながってるよね?同窓会のこと、太一ママが翔太に教えてくれたって』

急いで文字を入力しながら、マグカップを3つ棚から出した。

『え?翔太と?いや、俺つながってないよ、おふくろなんてもっと知らないだろ笑』

私は、思わずコーヒーを淹れる手をとめた。

― 翔太は同窓会のことは、太一から聞いたって、言ったよね…?

後でかけ直すと言って、電話を切り、Facebookの翔太のページを開く。改めてみると、共通の友達は一人もいない。

それによく見ると、彼がFacebookを始めたのは…先週だ。このアカウントは、あの電話があったあとに、作られたものなのだ。

その時、手にしていたスマホが鳴動し思わずびくっとなる。翔太からだ。

「美波?大丈夫?運ぶの大変だったら俺たちがそっちにいくよ」

「ううん…大丈夫!一人で大丈夫」

スマホを切る。雨でぬれたせいだろうか、指先が冷たい。

静かな水面に、ぽたりと絵具が落ちたように、疑念がじんわりと広がっていく。

― あの男の人は一体だれなの?同級生の翔太じゃないってことよね…?

私はこれまでの経緯を一つひとつ、頭のなかで再生していく。

最初から、少しずつ何かがひっかかる。

同窓会の幹事だと勇んで、最初に名乗ってしまったのは私。そして彼を翔太と最初に呼んだのも…私。

『ピンポーン』

その音にビクっとなり、手にしていたマグカップを取り落とした。男の気配は、すでにドアの外にある。

翔太じゃないとしたら、あの二人は誰?…そして私はすべてを知られてしまった。

「美波、遅いから来たよ。早くここを開けて」

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