アパレルメーカーBEAMSと約1年がかりで作ったブルースーツ。(C)Yoshihito Sasaguchi(SIGNO)
宇宙飛行士の野口聡一さんが2021年5月、日本人宇宙飛行士として初めて民間宇宙船で地球に帰還した。地上400Kmの宇宙と地球をつなぎ、リアルタイムでやり取りをする様子はまさに「究極のテレワーク」だったという。 今回が10年ぶり3度目の宇宙飛行となった野口さんに、最新の宇宙飛行事情や宇宙観光への展望、リモートワークで「心を孤立させない」過ごし方について伺った。(2021年12月取材)――まずは今年(2021年)5月、日本人宇宙飛行士として初めて、民間宇宙船で地球に帰還されました。日本だけでなく、世界でも大きなニュースになりましたね。2020年11月にフロリダのケネディ宇宙センターから飛び立ち、国際宇宙ステーション(以下ISS)に約5カ月半滞在しました。今回は私にとって10年ぶり、3度目の宇宙飛行で、しかもアメリカの民間宇宙企業「スペースX」のクルードラゴンが本格運用して初めての飛行。これまで私たち宇宙飛行士は、アメリカ航空宇宙局(NASA)やロシアのロスコスモスなど、国策として開発した宇宙船で宇宙へ行ってきましたが、今回は初めて民間宇宙船で地球とISSを往復することから“宇宙新時代の幕開け”とも言われ、早くから注目を浴びていました。――野口さんが搭乗されたクルードラゴンには、「レジリエンス」という名が付けられました。初号機にだけ、名前を付ける名誉にあずかるんです。そこで私たちクルー(乗組員)4人であれこれ意見を出し合って、「レジリエンス」と名付けました。強じん性、と訳されるこの言葉には、復活への強い意志、困難を乗り越える力、そしてしなやかに状況に対処していく柔軟性という意味が込められています。2019年末、宇宙飛行まであと半年余りとなり懸命に訓練をしていたころ、突然、新型コロナウイルスが現れ、ものすごい速さで世界中に感染が拡大しました。皆さんがステイホームしていたのと同じように、私も家から一歩も外に出られず、画面越しでの訓練ややりとりが主流となった時期もありました。打ち上げも延期になり、モチベーションを保つのに苦しんだこともありました。しかし私たちクルー4人は宇宙に挑戦することをあきらめませんでした。多くのかたに困難な目標に立ち向かう姿をお見せすることで、明日へのきぼうを感じていただけたら、という意気込みでこのミッションに臨んでいたのです。そんな私たちの思いを象徴する言葉が「レジリエンス」でした。――実際に搭乗された新型宇宙船・クルードラゴンはいかがでしたか? 船内はまず、全体の色のトーンが白と黒で統一されてとてもスタイリッシュ、まるでショールームのようです。操縦席には大きなタッチパネルがあって、そのときに必要な画面だけが現れて、指一本で操作できるようになっています。私がこれまで搭乗したスペースシャトルやソユーズは、3000個はあろうかというボタンと計器類がずらりと並び、1つの作業に1つのボタンを使うため、まずボタンの配置を覚えることからのスタートでした。それを思うと、タッチパネルでいくつもの作業ができる、一機多用の時代になったんだなぁと感心しました。私はこれを「黒電話からスマホへ」と呼んでいます(笑)。