PCにおける「ゲーミング」ジャンルは、昨今ではブームを超え、完全に定着した市場となった感があります。
高速なビデオカード(グラフィックスボード)をはじめとして、高機能マウスやメカニカルキーボードなど、ゲーミングブームがなかったらここまで大きくなっていなかったであろうジャンルも、一つや二つではないはず。
しかし一方で、競争が激しい世界でもあり、一時期はユーザーからの熱烈な支持を集めながらも消えていったブランドなども、数多くあります。
そうした中で7月31日、歴戦のPCゲーマーに支持されるビデオチップ(GPU)のブランド『3dfx』が復活する!? というニュースが話題となっています。ただし筆者が見る限り、現状での信憑性はあまり高くなさそうなので、留意が必要です。
(なおタイトル画像は、今回の話題より前に、レゴ公式のアイデア投稿サイト『Lego Ideas』に対してBhall_Spawn氏が寄せた3dfx製ビデオチップ搭載カードのアイデア。Engadget中文版が記事で紹介しています)。
参考記事:一起讓這款 Lego 組的 GPU 成真吧!(2020年3月)
あなたのプライバシー設定では、このコンテンツをご利用できません。こちらで設定を変更してください今回のニュースの震源地は、3dfx Interactive(3dfxの企業名)を名乗るアカウントによる上記のツイートです。
「3dfxは20年ぶりに帰ってくる。来週木曜日(8月5日)の大きな発表に備えよ」――という旨の一文です。同社は2000年にNVIDIAに買収されていますが、20年云々というのは、このあたりを踏まえてのこと。
文章としてはかなり直球であり、またゲーミングPCユーザーをメインターゲットとする文としては“ありそう”なタッチです。
が、一方でこのアカウントの経緯を調べてみればみるほど、信憑性という点では疑問符が付きます。
まず、添付されたイメージ画像ですが、これは二次創作作品。元は大手サイト『deviantart』に2009年(!!)に投稿された、vermaden氏による画像の模様です。 また、このアカウントのツイートと返信は原稿執筆時にはこれ1つのみで、当然ながらTwitter認証バッジ(いわゆる公式マーク)もありません。
さらにプロフィールの記載にはなぜかテクニカルサポートに関する記載もあり。このあたりからも、コラ職人などが使う「よく見るとジョークとわかる」ヒントでは……感が漂います。
さらに、アカウントの取得時期や名義変更履歴をTwitter IDチェッカー『idtwi』で調べてみると、アカウント取得とツイートが同日。当然断言はできませんが、一般的に企業が公式Twitterアカウントを開設する際には数日から数か月程度の準備期間があることが多いことを考えると、ここでも疑問符が付きます。
合わせて、実際に3dfx復活のパターンとしてありそうな「NVIDIAが1ブランドとしてカムバックさせる」戦略を考えると、ただでさえ同社にとってはGPU不足で手を焼いている昨今のタイミングで……というのは、いささか考えにくいところ(実はソフトウェアだけ……というパターンもなくはないですが、それこそ3dfxブランドに期待されるものではないはず)。
冒頭で筆者が「信憑性はあまり高くなさそう」、と紹介した点は、こうした点を調べるほどに、企業運営らしくない点が目立つため。このあたりは慎重に判断したほうが良さそうです。
さて、「そもそもなんで3dfxというブランドが話題になっているの!?」という読者には、解説が必要でしょう。
3dfx Interactiveとは、米国のビデオチップメーカー。上述のように2000年にNVIDIAに買収されていますが、PCで3Dゲームが楽しめた初期においては、まさに“ユーザーからの支持で覇権を握った”メーカーと呼べる存在だったのです。
同社の第一弾製品は、1995年の3D描画専用のチップ『Voodoo Graphics』(ブードゥー・グラフィックス)です。
当時は高級ビデオカードでも2万円から3万円台だった相場感でしたが、Voodoo搭載カードは3D専用カード(別途2D表示用カードが必要)でありながら3万円台と非常に強気な価格。
さらに動作のためにはソフトウェア側の専用対応が必要だった(専用描画API『Glide』を用いる必要があった)と、ハードルは非常に高かったものの、その速度が当時のライバル製品とは段違いだったことから大きな人気に。
1998年には、強化後継モデルとして『Voodoo 2』が登場しました。こちらも相場は約4万円と高価で、やはり2D表示用カードが別途必要と、敷居は高いものでした。が、蓋を開けてみればその速度は、初代の衝撃をも超えるほどの価格に見合うだけの速さ。
ソフトウェア面では初代Voodooとの互換であり、また初代の実績により、AAA級FPS『Quake II』や『Unreal』(ゲームエンジン『Unreal Engine』の命名元となったゲームです)、ハック&スラッシュの金字塔『Diablo II』など、当時のAAA級ゲームタイトル――しかも現在でもいろいろな形でシリーズの名前を聞く作品――が、こぞって対応しています。
そうした流れから、Voodoo 2は実質的に「ヘビーゲーマーの必須カード」、ジャーゴン的に呼べば“覇権3Dカード”とも呼べる存在の人気に。さらに2枚の連係動作「SLI」によるさらなる速度強化も可能だったため、これを搭載したシステムは、当時のユーザーにとっては憧れのゲームPCと呼べる存在となりました(上記のQuakeプレイ動画は非公式ですが、当時のプレイ雰囲気を感じられるもの。他カードでは15fpsや20fpsといった水準なのに対し、ほぼ安定した60fpsでのプレイが可能だったのです)。
しかし、このあと3dfxは経営戦略的なミスなどでビデオカードメーカーの支持をじょじょに失い、またライバル企業も強力な製品を揃えてきた点などから、一強状態から転落。上述のようにNVIDIAに買収されたという経緯です。
このように、現行執筆時点ではいささか分が悪そうに思える「3dfxブランド復活」ですが、このようにかつて市場の覇権を握ったブランドの復活、という手法自体は注目すべきものではないでしょうか。
ことゲーミングの世界においてゲームソフト側を見れば、クラシック作品の復刻は、いまや一定以上の人気と売り上げを集めるための手段として完全に定着した感もあります。
PCパーツの世界でも、そうした手法で注目を集めるプロモーション手段はもう少し増えても不思議ではないはず(一方で、今回の3dfxのように強力なブランドが多くあるわけではないのですが)。
そういった視点からは、今回の動向は、筆者個人的にもちょっと注目したいもの(もちろん筆者自身が3dfxファンということもあるのですが)。たとえ今回は真夏の夜の夢に終わったとしても、人気ブランドの復刻という手段自体は他のブランドも続いてくれると嬉しい動きでは……と考えます。
Source:3dfx Interactiveのツイート
via:WCCFTECH
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