株式会社ディー・エヌ・エーの増田淳氏(EC事業本部、趣味人倶楽部担当)
DeNAといえば「Mobage(モバゲー)」や横浜DeNAベイスターズの印象が強いが、同社のスタートはオークションサービス「ビッダーズ」(現在の「DeNAショッピング」)であり、趣味人倶楽部の誕生前はMobageやECサイトを中心に若年齢層から30代くらいまでを対象としたサービスを行っていた。
そんな中で「今後はもっと上の年代に向けたオンラインサービスを提供したい」とサービスを開始したのが趣味人倶楽部だ。DeNA創業者で現取締役(当時は社長)の南場智子氏とクラブツーリズムの代表が話し合い、意見が合致してスタート。クラブツーリズムの旅行情報誌「旅の友」とDeNAの持つオンラインサービスのノウハウを持ち寄って最大化することを目指したという。
趣味人倶楽部の誕生前の2005年ごろから、団塊の世代が定年退職を迎えるのに合わせ、多数のシニア向けサービスが誕生した。ところが、団塊の世代の多くが仕事を継続したこと、さらには2008年のリーマンショックを受け、そのころに誕生した多くのサービスは消えてしまった。そんな中、趣味人倶楽部が選ばれ、生き残った理由は何なのだろうか?
「意識したのは、シニア向けという先入観を持たないということ」と増田氏。今の50代以上は昔より若い。“シニア”というと人によって抱くイメージに相違があり、シルバー世代を想像してしまう方もいるのが実情だが、もっとずっと若く、週に2、3日は働いている人も多い。趣味人倶楽部内には、「60代以上嵐ファンクラブ」「50代~90代までの『女性限定コミュ』で~す」といったコミュニティが会員によって設けられているが、寄せられている投稿を見ていると年代が分からなくなるほどだ。
シニア向けを意識し、文字を大きくしたりページあたりの文字数を少なくしているサイトも多いが、趣味人倶楽部ではあえてそのようなことはしていない。「新聞を読み込んでいる世代なので、文字の大きさよりも読みやすさが大切。会員が日ごろ接している新聞や雑誌とトンマナ(トーン&マナー:全体の雰囲気に合わせること)が逸脱していないかを意識している」。
サービスを開始した当初は、青いアンダーバーのある文字列がクリックできる(リンクが張られている)もので、イラストや写真は見るものと思い込んでいる人が多かったため、できる限りボタンは使用せずテキストリンクに変えるという工夫をしていたこともある。最近はそのようなこともせず、一般的なサイトと同様の作りにしている。「特別扱いしない方が気持ちよく使ってもらえる」というのが最終的な結論だ。
サイトに掲載するイメージ画像でも、高齢者の写真は使っていない。トップページ画像に使っていた時期もあるが、会員から「そんな年じゃない」とお叱りのメールが届いて以来、使わなくなったという。「今の50代以上の方々は、実年齢より5~7歳若い印象」。
来年40歳になるという増田氏は、おとな世代の感覚をつかむために約2カ月に1回の頻度でイベントに同行するなど、会員から意見・要望を聞く機会を設けるようにしている。「最近は、シニア世代に対する報道は自分事にとらえるようになってきた」という増田氏。サイトに関する重要な意志決定をする際の最終判断は「10年後、自分はこのサービスを使うか」だという。