KDDI系のビッグローブ(BIGLOBE)が6月末、社会貢献を打ち出した新しいMVNOのブランド「donedone」(ドネドネ)を発表しました。自動的に寄付ができる仕組みに加え、速度制限があるものの50GBの大容量通信ができるなど、非常に個性が際立つ内容のdonedoneですが、このようなプランが生まれたのにはどのような背景があるのでしょうか。
NTTドコモの「ahamo」に端を発し、業界全体を巻き込むこととなった携帯電話サービスの新料金競争ですが、その余波は現在も続いているようです。6月末にも、複数のMVNOが新料金プランを相次いで発表しましたが、その1社となるのがKDDI傘下のビッグローブです。
同社は6月30日に発表会を実施し、新しいMVNOブランド「donedone」を発表しています。このdonedoneは、社会貢献を強く意識したという、従来のMVNOとは一線を画す異色の内容であったことでも注目されました。
donedoneのどのあたりが社会貢献なのかというと、料金プランの月額料金から50円を自動的に寄付する仕組みが備わっていることが挙げられます。寄付先は「教育」「健康」「海洋」など5つの分野から自身で選ぶことができ、大規模災害発生時などの際には災害支援のための「緊急」という寄付先も追加されるとのことです。
donedoneの内容を見ると、料金プランも非常に特徴的なものとなっています。donedoneには同じ月額料金で2つのプランが用意されているのですが、「ベーシックUプラン」では最大通信速度が3Mbpsに制限されるものの、すべてのアプリで50GBのデータ通信量を使うことが可能です。
一方の「カスタムUプラン」は、通常の最大通信速度は1Mbpsとより厳しい制限がかかる代わりに、「YouTube」「Instagram」など対象のアプリの中から指定した3つのアプリだけは、通信速度制限なしで50GBまで利用可能となります。そうしたことから、donedoneを純粋に料金プランとして評価した場合、どのアプリでどれくらいの通信速度が必要なのかを把握していないと快適に利用できない、かなり上級者向けの料金プランだといえるでしょう。
また、双方のプランの料金はともに2,728円と、MVNOとしてはかなり高めに設定されていることから、低価格重視の昨今にあってなぜこのようなプランを投入するに至ったのか?という点は疑問に感じるところです。その狙いを紐解く鍵は、donedoneのコンセプトでもある“社会貢献”にあるといえそうです。
携帯大手が「ahamo」などのオンライン専用プランを相次いで投入したことで、もともとオンライン専用に近いスタイルで低価格のサービスを提供してきたMVNOが危機的状況となり、それを打破するべくここ最近、多くのMVNOが新料金プランを投入しています。ですがその内容は、いずれもMVNOの顧客が多い3GB前後の低容量プランに重点を置き、さらなる低価格を追求したものとなっています。
もちろんビッグローブも、他社に対抗すべくそうしたプランを提供してはいるのですが、同社はMVNOというだけでなくKDDIグループの傘下企業という側面も持ち合わせています。それゆえ、KDDIが運営する「povo」や「UQ mobile」、そして同じKDDI傘下で、MVNOとしてモバイル通信サービスを提供しているJCOMの「J:COM MOBILE」と競合しないよう、差異化も求められているのです。
一方で、ビッグローブは従来の料金プラン向けに、動画や音楽の配信サービスなどの通信料をカウントしない「エンタメフリー・オプション」を提供するなど、MVNOの中ではエンタテインメント系サービスに強い要素を備えています。そうしたことから、MVNOが抱える制約の中で、自社の強みであるエンタテインメント要素を生かして大容量通信ができる仕組みを導入し、差異化を図るべく開発されたのがベーシックUプランやカスタムUプランといえるでしょう。
ただ、先にも触れた通り、これらのプランは使いこなすうえでアプリや通信に一定の知識が求められ、幅広い層に受け入れられるとは言い難いものといえます。そこで浮上してくるのが社会貢献です。
先のプランを使いこなせる知識を持ち、なおかつスマートフォン上でエンタテインメントを積極的に利用するのは主として若い世代ですが、その若い世代はSDGs(持続可能な開発目標)や環境問題などに関心が高い人が多く、社会貢献に前向きともいわれています。そこで、複雑なプランを使いこなせる若い世代にターゲットを絞ってアピールするべく、社会貢献という要素が加えられたdonedoneが生まれるに至ったのではないでしょうか。
裏を返せば、donedoneはそれだけ複雑で利用者を選ぶサービスでもあるだけに、契約を増やすうえでは、ターゲットとなる人たちに深く刺さるアプローチが必要となりそうです。KDDI傘下ということもあり、独立系のMVNOよりは資金力があるだけに、普及には社会貢献とエンタテインメントを組み合わせた、積極的なアプローチが求められるのではないでしょうか。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。