昨年の9月にIFAで発表、その後、白・黒のカラーバリエーションで発売されていたファーウェイの完全ワイヤレスイヤホン「HUAWEI FreeBuds 3」(以下、FreeBuds 3)に深い赤色の新色が追加されました。僕は私事でIFAに行かなかったこともあり、FreeBuds 3は未体験でしたが、とっても気になる存在だったのです。その理由は、14ミリ大径ドライバによる広帯域再生と、密閉型ではない開放型構造にプラスティックイヤーピースという、完全ワイヤレスイヤホン世界を席巻してきたAirPodsと同様の構成ながらノイズキャンセリング機能付きという、"そんなことできんの?"と率直に疑ってかかりたくなる仕様を盛り込んでいたからです。
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そんなわけで、レッドバージョン追加の際にHUAWEIのPR担当から連絡をいただいたので、試しに使ってみました......が、「こんなに良いとは思わなかった!」が率直な感想です。音質やノイズキャンセリングの能力など、個々の機能や性能を比較すると、音質はソニーのWF-1000XM3には到底かないませんし、ノイズキャンセリングの性能だって同製品にとても届きません。しかし、この二つの製品にはまったく異なる体験の"質"があります。言い方を変えれば、別ジャンルの製品と言ってもいいほど、目指している世界観が異なる製品でした。ワイヤレス充電対応ケース採用で2万円ちょっという値付けにも納得です。
唯一残念なことは、せっかくこれほどオリジナリティの高い商品企画、高い製品の質を実現していながら「耳から赤唐辛子」と写真にキャプションを付けたくなるほど、AirPodsに似ていることでしょうか。商品力高いんだから、もっと独自性高いデザインコンセプトにすればいいのになぁあ......。
心地よさをそのままに、より静かな体験を
アクティブノイズキャンセリングは、耳に入ってくる音と逆位相(逆の波形)の音を加えてドライバーユニットから出し、ノイズを打ち消すことでその機能を実現しています。"アクティブ"と書いているのは、"パッシブ(受け身)"の場合もあるからで、いわゆる耳栓はパッシブなノイズキャンセリング機能の代表例です。ノイズキャンセリングイヤホンもヘッドフォンも、いずれもこの二つのノイズ低減の仕組みを"組み合わせて"使っています。FreeBuds 3でまず驚いたのは、まずその片方の柱である「パッシブなノイズ低減」を放棄していることです。ご存知の通りAirPodsはプラスティックの筐体にレジンコートし、クリーンで快適な装着感をほとんど経年変化なく持続できます。これは大多数のひとの耳にフィットする、形状を開発できたからです。快適な形状で耳に装着し、"密閉しない"ことで開放感を得ています。密閉しないため、閉塞感はなく軽快に使いこなせ、長時間使っても疲れないのですが、当然ながらパッシブなノイズキャンセリングはうまく機能しません。AirPodsはむしろ、そうしたネガティブを理解したうえで、自然に音を楽しめるイヤホンとして設計されていたわけです。Appleはそんな特徴をアクティブノイズキャンセリングイヤホンであるAirPods Proでも引き継ごうとしていますが、一方でノイズを遮断するために密閉度も重視しています。独特の圧迫感が少ないイヤーチップや、外音取り込みモードといった特徴は、AirPodsの特徴を引き継ぎながら、ノイズキャンセル機能を高める工夫です。このため装着感はカナル型(耳栓型)イヤホンとは思えないほど軽快ですが、一方で無印のAirPodsほどの開放感もありません。
さて、FreeBuds 3に話を戻します。こちらはあくまでもAirPodsの切り拓いた装着感、使用感をベースに"ほんのり静かにする"ことで、より落ち着いて、適度な音量で音楽を楽しめるようノイズキャンセリングのエッセンスを加えています。きちんと密閉することで、"ノイズを遮蔽する能力を最大化しよう"という意図は感じられません。感じるのは、AirPodsと同じような使用感のまま、"より静かな環境で音楽を楽しめるようにする"、いわばAirPodsの体験を強化する方向で開発されているようです。もし、あなたがAirPods ProやWF-1000XM3などを検討し、その魅力を優れたノイズキャンセル機能に見いだしているのであれば、本機を検討する必要はありません。ノイズを遮断できる音域も、キャンセルする能力も、それらの方が優れています。飛行機や電車の中で、静けさを得たいといったニーズに、FreeBuds 3では応えることができません。しかしAirPodsに似た開放感を求めるならば、FreeBuds 3は唯一の選択肢です。どの製品とも似ておらず、その"似ていない"ところに価値があります。
細かな設定はAndroid端末からのみながら、両使いなら使い勝手は悪くない
ただし、FreeBuds 3は製品の設定をAndroid向け専用アプリでのみしか提供していないという制約があります。AirPodsやAirPods ProがiOSからでなければ設定、ファームウェアアップデートを行えないのと真逆とも言えますが、FreeBuds 3の場合、もう少し制約が加わります。
それはアクティブノイズキャンセリング機能を最適な状態にするため、このアプリ上でのカスタマイズが必要になること。自分で周囲のノイズを聞きながら、もっとも"静かになる"ポイントを探るというものです。FreeBuds 3が拾う音とアクティブノイズキャンセルの波形位相を合わせる調整なのですが、装着するひとによって個人差があります。筆者の場合、デフォルト状態でもそこそこノイズキャンセルの効果を感じることができましたが、さらにチューニングを加えることで最適にできますし、別の人が試すとまた異なる調整点に落ち着くわけです。ということで100%の性能を発揮するには、Android端末が必須。"開封直後"でも、もちろん使うことはできるのですが、最適な状態にするにはAndroidが必要です。
そのほか、FreeBuds 3では左右ダブルタップに機能を割り当てることができます(左がアクティブノイズキャンセルのオン・オフ、右が再生・停止のトグル)が、その変更もAndroid上のアプリから行う必要があります。
ただし、Android端末で設定や調整さえあらかじめ行っておけば、その調整値や設定は本体内に保存されるため、iPhoneやiPadでも利用できます。
肝心の音質......これがもっとも驚きかも?
さて肝心の音質ですが、実は音質が一番驚いた部分かもしれません。AirPodsと同様の構造のため、低音が痩せ気味な音を想像していました。実際、ファーウェイが自社サイトで主張しているような「重低音(関係ないですが"重い"低音は音質的にはよくないですよね)」は出てきませんが、ポピュラー系の楽曲なら充分な低域の量感。高域の伸びやかさがもう少し欲しいところですが、中域が厚く聴きやすい音です。情報量は多くありませんが、余分な響きが載らないためリラックスして聴けるでしょう。高音質を求めるというよりも、何か作業をしながら音楽を楽しむとき、緊張感なくゆったりとした気持ちでいられる。そんな音ですね。なお、電源がオンになるたびにノイズキャンセル機能はオフになるようで、毎回、モードを切り替える必要があるのがやや手間に感じました。あるいはノイズキャンセル機能はオフがデフォルトで、必要なときにオンにしてね......というスタンスなのかもしれません。
完全ワイヤレスイヤホンは今、Amazon.co.jpで売られている中国ブランドから2500〜4000円ぐらいの価格で購入できますが、ノイズキャンセリング機能付きになると2万円以上。その中で高音質とノイズキャンセルの効果を競っていますが、本機はそんな競争の外にある製品です。AirPodsのような使用感に、いつもよりも静かな環境をもたらす。そんなユニークな立ち位置に魅力を感じたなら、他に選ぶべき製品はありません。惜しまれるのは、これほどユニークな競合がいない製品にもかかわらず、本体のデザインや仕上がりの雰囲気がAirPodsと似ていることです。ここまで似ていると、まるでAirPodsのニセモノみたいですよね。せっかく独自性が高いのだから、もっとオリジナルのデザインで攻めてほしいものです。
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