Snapdragon 888 搭載でも5G非対応、不自然なファーウェイのスマホに見る苦境(佐野正弘)

書かれた 沿って mobilephonebrand

米国政府から制裁を受けてスマートフォンを思うように開発できなくなった中国のファーウェイ・テクノロジーズ。2021年に入るとその影響は如実に表れており、2020年には一時トップとなった世界スマートフォン出荷台数シェアも、最近では他の中国新興メーカーに追い越され順位を大きく落としています。今やサムスン電子やアップルとシェア上位を争う中国メーカーは、ファーウェイ・テクノロジーズからシャオミへと移っている状況です。

とはいえ、同社はコンシューマー向けの事業を諦めた訳ではなく、現在もスマートフォン新機種の投入を継続しています。実際2021年7月29日には、スマートフォン新機種の「HUAWEI P50」シリーズを中国向けに発表していました。

その内容は既報の通りですので詳細説明は避けますが、同社のフラッグシップモデルの1つ「P」シリーズの最新機種ということもあって、とりわけ上位モデルの「HUAWEI P50 Pro」は最大200倍ズームに対応するなど、非常に高いカメラ性能を備えています。ですが一方で、傘下のハイシリコン・テクノロジーが開発していたチップセット「Kirin」シリーズが米国政府からの制裁で製造できなくなっているだけに、それだけ性能の高いスマートフォンを消費者に安定供給できるのか?という点には疑問の声も出ていました。

そこで同社が見せた解決方法はやや意外なものでした。HUAWEI P50シリーズのチップセットに「Kirin 9000」だけでなく、クアルコム製の「Snapdragon 888」も採用したのです。

同じスマートフォンに異なるチップセットを採用するというのは、サムスン電子のGalaxyシリーズのハイエンドモデルで良く見られるもので、それ自体珍しいことではありません。それゆえもう製造できないであろうKirin 9000の在庫を補う形で、Snapdragon 888を使うこと自体は不思議ではないのですが、疑問がわくのはその調達先が、ファーウェイ・テクノロジーズに制裁を課している米国の企業だということです。

なぜクアルコムがチップセットを供給できたのかといいますと、クアルコムが米国政府から許可を得たというのが主な理由のようです。2020年11月に一部報道で、クアルコムが米国政府からファーウェイ・テクノロジーズに半導体を販売する許可を得たとされており、それを受けてHUAWEI P50シリーズにクアルコム製チップセットを搭載するに至ったと考えられます。

確かにHUAWEI P50シリーズ以前にも、同社がクアルコム製のチップセットを採用するケースがいくつか出てきてはいました。例えば2021年7月に日本でも発売された同社製の最新タブレット「HUAWEI MatePad 11」にも、クアルコムの「Snapdragon 865」が搭載されていたりします。


 Snapdragon 888 搭載でも5G非対応、不自然なファーウェイのスマホに見る苦境(佐野正弘)

もちろん米国政府からの制裁は続いているため、OSにAndroidではなくHarmonyOS 2.0を採用する必要があるなどの制約は残っています。ですがクアルコムから安定的にチップセット供給を受けられる限り、スマートフォンやタブレットを継続的に提供できることは、同社にとって明るい材料といえるでしょう。

しかしだからといって、同社がかつての勢いを取り戻せるかというと話は別で、米国政府の制裁による影響は色濃く残っています。というのもHUAWEI P50のチップセットを確認しますと「Snapdragon 888 4G」と記述されており、モバイル通信はなぜか最新の5Gではなく、4Gまでの対応となっているのです。

同社はかつてはKirinシリーズで積極的に5G対応を打ち出していただけに、5Gに対応できるはずのSnapdragon 888を搭載しながら、4Gまでしか対応していないというのは非常に不自然な印象を受けてしまいますが、それこそが米国の制裁の影響が継続している証なのです。

というのも米国政府がクアルコムに販売を許可したのは4G向けの半導体のみで、5G向けは対象外になっていると見られているのです。それゆえファーウェイ・テクノロジーズが調達できるSnapdragon 888は5Gに対応していないもののみで、それが5Gに対応できない主因と考えられるのです。

そうした米国政府の対応を見るに、米国政府が最も懸念しているのはチップセットそのものではなく、5Gとそれに関連する技術であることが見えてきます。

そもそもKirinもSnapdragonも、さらに言えばアップルの「A」シリーズやグーグルが開発しているという「Tensor」も、CPUなどについては同じ英国のARMの技術をベースとしています。それゆえカメラやAI関連の機能で各社独自の工夫が入っているとはいえ、通信以外の部分で各社のチップセットには技術的に決定的な違いがある訳ではなく、それ自体を輸出しても技術流出にはつながらないと米国政府は判断し、クアルコムのビジネスを優先させたといえるでしょう。

一方で5Gに関しては、今後企業や社会のデジタル化に欠かせない存在と見られていることから、その技術が友好国以外に流れると安全保障上大きな影響が出ると判断し、米国政府は販売を許可していないのだと考えられます。中国は世界的にも5Gの技術をリードする存在となっているだけに、その中国と対立を強めている米国政府の、5G技術に対する警戒心は非常に強いものと考えられます。

そうしたことから米国政府が、ファーウェイ・テクノロジーズに対して5Gに関連する半導体の製造や販売を許可するとは考えにくく、当面ファーウェイ・テクノロジーズは4G、あるいはモバイル通信機能を持たないデバイスしか開発できない状況が続くものと考えられます。そして既に先進国を中心として、スマートフォン新機種の5G対応率が急速に高まっていることを考えると、今後クアルコムからチップセットの安定供給が受けられたとしても、同社のシェア回復につながるとは考えにくいというのが正直な所です。

そこで気になるのが、そうした制約がありながらも同社がどうやって市場での生き残りを図っていくかということ。5Gに対応できないとなるとお膝元の中国市場でもシェアを伸ばすのは厳しいだけに、4Gでもまだニーズがある低価格帯に注力するのか、それともHUAWEI P50シリーズのように「4Gでもハイエンド」を継続するのか。再び世界市場に打って出るのかどうかも含め、引き続き同社の戦略には注目が集まる所です。