ドドドからキュイーンへ。
電動化の波はモーターサイクルにも怒涛のように押し寄せて、ホンダをはじめ台湾や中国の新興企業が参入していますが、これまでシティコミューターのスクーターがメインでした。そしてついに今の夏、本格電動モーターサイクルが登場するんです。Tesla(テスラ)みたなスタートアップ企業かと思いきや、なんと創業1903年、100年以上の歴史をもつ老舗企業Harley-Davidson(ハーレーダビッドソン)から。
その電動モーターサイクルの名前は「LiveWire」。ハーレーダビッドソンというとハンドルが長くてのけぞって乗るアメリカンスタイルをイメージしてしまいますが、LiveWireはヨーロピアンスタイル、業界的には「ストリートファイター」と呼ぶネイキッドバイクなので、とってもスポーティ。
でも売りはデザインだけではありません、性能もとってもスポーティ。モーターならでは0回転からでも最大トルクを出せる特性をいかし、0-60mph加速はスーパーカーなみの3.0秒。それだけ聞くとウィリーしちゃいそうですが、もちろん制御機能が充実。ABSやトラクションコントロール、アンチスリップ、アンチウィリー機能が装備されていて、スロットルをひねるだけで誰でもそのパフォーマンスを引き出せるという触れ込み。
今回は全米発売にさきがけてプリプロダクションモデルを試乗体験できたので、そのレビューをお届けします。
まずは気になるデザイン、コンポーネントから。電動なので一番大事なのはバッテリー。車両重量は249kgとハーレーとしては比較的軽量なLiveWireですが、バッテリーが105kgとその4割を占める、もはや走るバッテリーといった作り。そのためバッテリーを中心にフレームパーツで挟み込み、前後にタイヤ、バッテリー下部にインバーターとモーターを配置しています。
給油口ならぬ充電口はいにしえの伝統にのっとり、タンクの上に配置されています。とはいえもちろんダミーで単なるカバーですが、うまくハーレーのもつ伝統とこれから見せたい未来をうまく融合したすっきりしたデザインに仕上がってます。
ダミータンクの下の膝がちょうどあたるところはクッションで覆われていて、快適性もアップ。フレームの隙間からは放熱フィンがついたバッテリーが見えていて、エアインテークからの空気を綺麗に流してバッテリーを冷却します。
水冷用ラジエータもついてますが、これは熱を持つと性能が低下するモーターとインバーターを効率よく冷やすためで、機能とデザインの融合もできています。
充電は40分で80%、60分で100%の急速充電に対応。120-240Vの家庭用電源でも12時間で満充電になります。このへんはテスラや日産のリーフなど、電気自動車と似たような感じです。
もちろんクロームメッキの丸いアナログメーターなんてことはなく、まるでスマートフォンのようなブラックアウトされた液晶画面に各種情報を表示します。またiPhoneと bluetooth接続するH-D Connectをサポート、ナビゲーションや音楽再生だけではなく、遠隔からモニタリングすることができ、走行可能距離や充電状況、近くの充電ステーションがわかるほか、防犯機能もサポート。
表示部はタッチスクリーンになっており直感的に操作できるほか、ライディング時は手元のジョイスティックで操作できるから安全。
へたれな私としては0-60mphが3.0秒ときいて、やべー、まじやべー、発進ウィリーして、バク転しちゃうかもと心配になっていましたが、ラフにスロットルをあけてもそんなことにならないよう、ちゃんと制御されます。
そして走り味を変えるライディングモードは4つ、標準的な「ロード」、より加速、オフスロットル時の減速が強い「スポーツ」、雨の日でも安心、マイルドな「レイン」、そして航続距離を伸ばすために加速はマイルド、回生ブレーキを強力にした「レンジ」があります。
セルスイッチで電源ONするも当然微動だにせず、エンジン車のような音も振動もありません。かすかに電源ONになったことを知らせるハートビートのようなトックン、トックンという鼓動だけが伝わってきます。このバイク、生きてる!
そしてスロットルをひねると静かに走り出し、低速域でもギクシャクすることなくスムースで、電動スクーター、電動キックボードと同じように誰でも簡単に乗り出せます。もちろんクラッチレバーにシフトレバーもなくバランスに集中しやすいからむしろ初心者向きかも。
標準的な「ロード」モードでのスロットルオフ時の回生ブレーキの効きはマイルドで、コースティング走行も楽。渋滞している街中のストップ&ゴー時ではスロットル操作で速度調整がしやすいし、クラッチ、シフト操作がないので低速時でも楽チン。
シート高も低く、足つき性がいいので取り回しもよいです。これは通勤通学の友に最適、買い物にもいいかも、ただし積載スペースはほぼゼロです。
LiveWireはワインディングで本領発揮、速えええええ、しかも静か! モーターのダイレクトな加速はまさに胸をすくよう、しかも音が「キュィィィィーーン!」という高周波の音で、スコープドックかバーチャロンかという新感覚。意識よりも速く肉体が前に持っていかれるようで、まさに生きながらにして幽体離脱できます。
自転車やヨット、グライダーがいいのはエンジンの騒音がないからといいますが、その爽快感に近いでしょうか。ハーレーといえばドドドドドという重厚な排気音が売りだと思っていたのですが、そんなこと一切お構いなし、エンジン音を流すようなギミックもなく、スムース&サイレントな未来を見せてくれます。
またハーレーといえば映画「イージーライダー」でまっすぐ走るのが得意なクルーザーのイメージですが、このLiveWireはスポーツバイク。ワインディングではヒラヒラと舞うように走っていけました。こんなときは「スポーツ」モードの強力な回生ブレーキが役立ち、オフスロットルで思った通りの制動がきいて減速。そして立ち上がり加速の速いこと、速いこと。
これはもちろんモーターサイクルとしての基本性能、ブレーキとサスペンションがしっかりしているから。ブレンボの対抗ピストンキャリパーをラジアルマウントし、強力かつコントローラブルなブレーキとリアタイヤのグリップを失わない制御のおかげで、ただ速いだけじゃなくてきっちりと減速できるので安心でした。
スペック上の航続距離は市街地走行235km、高速道路とストップ&ゴーがあるモードで152km、二輪の燃費基準であるWMTCモードでは158kmとなっています。
今回の海外試乗はイタリアメディアと一緒だったのですがさすがラテン。郊外のワインディングになった瞬間とんでもないスピードでコーナーの向こう側に消えていきます…色々な意味でついていけません。そんなハイスピードな極限走行をしてのバッテリー消費はさすがに激しく、60kmくらいの走行距離で残りが40%となってました。このペースだと100kmちょっとくらいしか走行できそうにありませんが、これ以上悪くなることはないでしょう。
市街地のストップ&ゴーやアップダウンの激しいところは回生ブレーキがよく効いてエネルギー回収できるので、高速道路やワインディングでブイブイ走るより電費がよくなります。回生ブレーキはオフスロットルで最適に制御されて機能するので普段は気にしなくていいし、どうしても距離を稼ぎたい場合は「レンジ」モードに切り替えればOK。すごい強力な回生ブレーキでガンガンエネルギーを回収してくれます。
日産リーフがデビューしたときの航続距離が200kmで、実質130km程度と言われていましたが、LiveWireも実質それくらいでしょうか。そもそも燃費が悪く、タンクの小さいバイクの場合航続距離が200km以下というのはザラだし、ツーリング用途でなければ一度に長距離いくことは滅多にないのでそこまでシビアではないでしょう。それに昔と違ってあちこちに充電ステーションがあることや、発売するアメリカや欧州のハーレーダビッドソンの各ディーラーに1台急速充電器を配備するということなので安心です。
バッテリーの耐久性ですが、距離無制限で5年間保証なので気にしないで大丈夫。
ハーレーといえば大排気量のVツインエンジン、「ドドドド」という野太い排気音が特徴でしたがまずこれがありません。余りに静かすぎて朝でかける時に近所から「うっせーよ、今何時だと思ってんだ!」とクレームがこなくなります。
ガソリンを入れないからガソリン臭もしないし、目がチカチカする排気ガスも出ません。熱いエンジンやマフラーもないから間違って触ってもアッチッチにならないし、夏の渋滞で股の下からモワーと熱気が来ません。
クラッチレバーがないから渋滞で左手の握力がなくなることもないし、シフトレバーがないから1速に入れたつもりがニュートラルになっててN芋したり、それが原因で立ちゴケすることもありません。
エンジンがないからオイル交換もプラグ交換の作業も不要、チェーンではなくベルトだからオイルをさす必要もなくオイルフリー、メンテナンスフリー、維持費が安くすみます。
なんだ、いいことばかりじゃないですか!
このLiveWireはこの夏からアメリカ、ヨーロッパで販売を開始。その後順次販売地域を拡大していくということで、日本市場への導入も検討されているそう。導入時には日本で普及している急速充電器、 CHAdeMO規格に対応したいとしているので、そうなれば普及している高速道路のSAや自動車ディーラーの急速充電器が使えるので、安心感ありますね。いやー、早く日本導入してほしいい。
最後に気になる価格、アメリカ市場で約3万ドル、日本円にして330万円ほど…予想どおり高価だけど二輪のテスラと考えると最初高いのも仕方ないですよね。リセールバリューも高いだろうから、実際かかる費用はそんなにないはず?
ターゲットユーザーとしてはハーレーダビットソンのコアなファン、コレクターでもう1台増やしたい人、都会に住んでるエスタブリッシュ層、アーリーアダプターだそうです。後半はまんまテスラのユーザーと被りますね。
なぜハーレーがこれを作ったのか。100年前、創業時にエンジンの二輪車を作ったように、電動化でイノベーションをしようということです。伝統のVツインエンジンじゃないとハーレーじゃない、という先入観をもっているのはむしろ我々ユーザーの方で、ハーレー自身は伝統も守りつつも、電動化による可能性をいかして、みんな走りにいこうよ、毎日のろうよ、楽しいよ、って言ってきている気がしました。
ほんと、電動化でさらにモーターサイクルの可能性が広がりますね。日本導入が待ち遠しいです。
この記事の製作にあたっては、Harley-Davidson Japanからの招待を受けています。