朝起きるとiPhone Xが不調だった。発売してすぐに購入し、1年以上使っている個体だ。
具体的には、ディスプレーを垂直に緑色の線が浮かび上がり(「グリーン・ライン・オブ・デス」などと呼ばれていた現象と思われる)、ディスプレーがチラついたり、色味が変わったりする。タップしても反応したり、しなかったりする。突然、真っ暗になったかと思えば、すぐに正常に戻る。こういった症状が見られた。
明らかに故障なのだが、その時点では、自然と直ることを期待しながら使うことにした。
ところが昼頃には異変が本格化した。タップに対して反応する確率が半々くらい。チラつきはますますひどくなり、薄くなったり、突然表示が下側に大きくずれたり。もはや使い物にならない状態になった。何度も再起動や強制リセットを試みるも、だんだん状態は悪くなり、最終的には真っ暗になってしまった。しかしロック解除に失敗したらしい振動やスクリーンショットの音は鳴るので不気味である。自然に直る線を諦め、アップルストア銀座のジーニアスバーを予約することに。運よく、当日の15時に予約が取れた。
写真が取れなかったので、iPhone Xが故障したときのイメージ図を作成した。緑のラインが縦に入り、表示が全体的に下にずれたり、チラついたりした上に、タップも反応したりしなかったり。下半分がうっすら緑色になることも
iPhoneが故障して使えなくなるという経験がはじめてだったのだが、困ることが多かった。
まず電話が受けられない。メールが見られない。ノートPCがあるからどうにでもなるかと思いきや、普段、外出先ではiPhoneのテザリングでノートPCを使っているから、異なるWi-Fiに接続するとGmailのログインに認証が必要になってしまう。iPhoneは使えないのでSMSや通話によるログイン認証ができず、ノートPCでもメールが見られない。そもそもテザリングも有効にできない。
近くの喫茶店も調べられないから自力で探すしかないし、それほどよく知らない街で「あれ? あのお店ってどの角を曲がるんだっけ?」といった場合も地図は見られない。ニュースがチェックできないのも不安になってくる。ジーニアスバー予約時刻までの3時間ほど、さまざまな不便を感じ、普段どれだけiPhoneに依存しているのかを思い知ることになった。
ひとまず職場にはChatworkを使って「iPhoneが壊れていて修理中なので電話やメールが無理になりました」と連絡をした。「了解。いまのところ君宛ての連絡は見てないし、特に異常もない」という内容の返事がきた。それは先の見えない泥水に差し込む一筋の光だった。
運よく当日に、アップルストア銀座のジーニアスバーが予約できた
そんなこんなでジーニアスバーに到着。担当してくれたのは非常に感じのよいお兄さんだった。症状を説明すると、「振動や音はあるので、たぶん、ディスプレーパーツのみの故障だと思います。診断機にかけてみましょう」と手慣れた手つきで見慣れない装置にiPhone Xをつないでくれた。
「やはり電源は入っているので、ディスプレーが故障しているんだと思います」と教えてくれるお兄さん。しかしその後に告げられた事実が衝撃的だった。
「ディスプレーパーツがうまく反応しない不具合は、アップルが一部のiPhone Xに対して認めていて、この個体も対象になっています。なので、これから中を開けてみて、ディスプレーのみが故障していた場合は、費用はいただきません。ただ、ほかのパーツに破損が見られた場合は、有償修理になる可能性があります。その場合の料金は、6万2400円です」
iPhone Xの修理料金。Apple Care+に加入していると安心だ
Apple Care+に加入していなかったため、無償か、6万2400円払うかのくじ引きである。当然、中を開けるまで、ほかのパーツも故障しているのか、ディスプレーのみが故障しているのかはわからない。
おそらく、お願いしないことには話が進まないのだが、一応「え? 6万2400円?」と聞いてみた。ほかの案が出てくるかもしれないと思ったのだ。しかし、まったくの無駄だった。お兄さんは申し訳なさそうに「ええ、保証期間が過ぎていますので……もし費用の面で修理を見送りたいということでしたら、そのままお持ち帰りいただくこともできますので」と説明してくれた。
自分が無駄な質問をしたことによってジーニアスバーのお兄さんに、申し訳なさそうに説明するという手間を生んでしまった。「そうですか。じゃあここはひとつよろしくお願いします」と快く返事をした方が、よほどよかったのだが、6万2400円は払いたくないという気持ちがあったので仕方なかった面もある。
3時間半ほどで修理は終わるという話だった。ひとまず、すぐ近所のプロントに入りネットワーク環境がなくても進められる仕事をしながら予定時刻を待った。
今回の明細。本来はディスプレーの修理には3万1800円がかかる。今回は公式に認められた不具合だったため、無償になった
そして約束の時刻。夜になるとジーニアスバーは修理受付よりも引き取りの人が増えていて、受付票を持った人たちが列を作っていた。この人たちも突然iPhone Xが動かなくなって困っていたのかもしれないと考えると、親近感が湧いた。
引き渡しの担当は昼間のお兄さんでなく、また別のフランクな女性だった。女性は「あ〜、こちらは……代金は無料ですね! 動作に問題がないかどうかだけ確認してください!」と明るく言うと、包みから問題なく動作するiPhone Xを取り出してくれた! 感動の再会である。正確にはディスプレーやセンサー、カメラを備える前半分のパネルが新品に変わっていたので、半分のみの再会である。
修理から90日間は保証期間になり、再度自然故障による修理が発生しても保証してもらえるという旨の説明があり、受け取りのサインを書いてジーニアスバーを後にしたのであった。帰り道、修理を終えて元気に動いているiPhone Xは、いままでに見たどの瞬間のiPhone Xよりも最高だった。
この話に直接関係ないが、アップルストア銀座のエレベーターは開閉ボタンや階数ボタンがなく、上下とも乗降者の有無にかかわらず、かならずすべての階に止まり、降りる人が降りるまではドアは開きっぱなしになる仕組みで、どことなくアップル製品的な哲学が感じられる。
行きは直るかどうか不安だったので、早く4階のジーニアスバーに着いてほしいという気持ちしかなかったが、帰りは無償で修理が済んだ嬉しさと、無事に使えるようになった安心感で、悠々とした気持ちで各階の様子を眺めながら下りることができた。
こんな具合で、突然壊れたときは焦ったが、比較的スムースに修理の予約から修理までができたので、結果的にiPhone故障時の段取りも学べ、参考になった体験となった。
ちなみにこの原稿は「せっかくiPhoneが突然壊れるというレアな現象に遭遇したから、原稿にしようかな」くらいの気持ちで書き始めており、終着点をきちんと決めていなかったので、どう結ぼうかと悩んでいるが、今後突然iPhoneが壊れて困った人が読んでくれたときのために、iPhone修理における注意点と、今回の気づきをまとめてみたい。