株式会社Resilireの開発するサプライチェーンリスク管理プラットフォーム「Resilire(レジリア)」は、自然災害によるサプライチェーンへの被害を防ぐためのクラウドサービス。2020年6月のβ版リリースから大手製薬会社や自動車メーカー、商社に導入されている。代表取締役の津田 裕大氏に企業のサプライチェーンリスク管理の現状と、Resilireのサービスの特徴について聞いた。
近年、気候変動に伴う自然災害が世界中で多発し、膨大な経済損失となっている。
特に新型コロナウィルス感染症などは、自然災害のような局所的なものではなく継続的にサプライチェーンへの支障をきたしてしまう。
万を超える点数となる自動車の構成部品を例にすると、そのうち1つでも在庫切れを起こすと、1時間あたり億単位の損害が出ると言われている。多数のサプライヤーからいかに原料や部品の調達を止めることなく稼働し続けるか、チェーン全体の俯瞰とリスク対応が求められている。
サプライチェーンのリスク管理のポイントは、全サプライヤーの把握と、リスク発生時の被災状況の把握の2つ。多くのサプライヤーを抱える大手製造業は、そのすべてを把握するのは難しく、被災時などのリスクも大きくなる。直接部品を供給している一次請けとなるティア1やその下請けのティア2あたりまでは把握していても、ティア2以下のメーカーが仕入れている素材部品や原料がどこで作られているかまでは完全に把握しきれていない。トヨタの場合でも、数万件のサプライヤーのうち、把握できているのは数千件程度に留まるという。
大企業の多くは独自にSCMを構築しているが、サプライヤーと接続するには相手側の企業もSCMシステムを導入しなければならず、中小の製造業にとって負担が大きい。高額なSCMを導入しても十分に機能せず、相変わらずExcelの表でサプライヤーを管理しているのがDXが叫ばれる中での現状だ。
災害が発生した際、影響がありそうなところへ電話やメールで状況を確認するのは効率が悪く、復旧までに時間がかかってしまう。だが、全サプライヤーの所在地が把握できていれば、災害予報などから未然に危険なエリアに所在する工場へ連絡を取り、代替製品を生産できる工場を確保するなどの対策を講じることも可能になる。
Resilireでは、サプライチェーン全体を把握するため、ツリー形式でサプライヤーを可視化。また、マップ上にサプライヤーを表示し、気象庁等からのオープンデータなどの災害情報をもとに被災拠点を可視化し、危険なエリアにサプライヤーがあれば、自動的にメールが送信される仕組みだ。
サプライチェーンをツリーで管理できる
サプライヤーをマップ上に表示し、被災状況を可視化する「被災把握マップ」
このようなサプライチェーンのリスク管理は、サプライヤー側との意思疎通が取れなければ機能しない。サプライヤーをいかに巻き込み、コミュニケーションをスムーズにするかが重要だ。
まずはすべてのサプライヤーとネットワークをつなぐ必要があるが、膨大なサプライチェーンを持つ親事業者に情報を集めて登録するのは手間がかかるうえ、漏れやミスが起こりやすい。Resilireでは、上流のサプライヤーが下流のサプライヤーへと次々とアカウントを割り当てられる仕組みなので、親会社が対応しなくても隅々までIDが行きわたり、拠点の変更や追加があった際にも更新しやすいという。
また、サプライヤー側の負担にならないよう、最低限の手間で情報を上げられる工夫がなされている。例えば、災害発生時にはマップ上で拠点を選んで、「正常」または「異常」を選択するだけですぐに状況を伝えられる。また、サプライヤーへ状況確認のために送付されるメールは選択式のフォーム型で、スマホから簡単に返信ができる。
現在は気象庁のAPIから国内の地震と浸水害情報を入手しており、停電、土砂、火災、爆発にも対応。さらに、災害をシミュレーションする模擬訓練機能も用意している。例えば、首都直下地震が起きたときに影響のあるサプライヤーを事前に把握することで、特定の品目の開発拠点が集中していれば拠点を分散しておく、といった対策がとれる。
次の挑戦は、平時のうちにリスクを可視化して対策を取れるようにすることだ。 「材料の供給が止まったとき、代替調達先を発見し評価するのに数年かかる場合もあります。止めてはいけないボトルネックを可視化し、事前に対策が必要な品目を特定できるようにしていきたい」(津田氏)
現在は国内の気象データのみの対応だが、製造業は海外の拠点が多く、自然災害だけでなく、テロなどの政治的なリスクもある。まずはサプライヤーの集中する中国の浸水害データへの対応から、徐々に対象範囲を広げていく計画だ。