普段、何げなくプレイしているスマホゲームは実は中国製かもしれない。近年、着実に実力をつけつつある中国勢だが、本国での規制強化で日本進出が加速する!?
コンソールでもやがて中国勢が世界を席巻!?
人気シリーズ『龍が如く』を手がけてきたゲームクリエイターの名越稔洋氏がセガを退社し、「名越スタジオ」を設立したことが1月下旬に発表された。ゲーム業界にとって衝撃的だったのは、中国ゲーム大手・ネットイースゲームズが同社に100%出資していたことだ。中国のゲーム会社は近年、日本市場への攻勢を強めている。背景にあるのは、中国で強まるゲーム規制だ。オンラインゲームを配信する際に当局の認可が必要だが、昨年7月以降、認可された作品は1本もない。苦境に立たされたゲーム関連企業の倒産は1万4000社にのぼるとの報道もあった。しかし、この数字自体は中国にとって大したインパクトではない。
進出を加速させる中国企業の狙いは?
日中を拠点にゲーム開発に携わるグラティーク代表の高橋玲央奈氏が言う。「そもそも中国ではゲーム関連企業が26万社もあるといわれており、いくら国内市場が大きいとはいえ多すぎます。これから淘汰が進むと思いますが、良質なゲームを作っているのに海外進出していない企業もまだまだ存在します。『今年は日本に進出する年にする』と言っている会社もありますね」中国企業の海外進出が加速しそうだが、10年以上、日中間のゲームビジネスに携わってきた飯島剛氏は「必然の流れ」だと言う。「4年前に新作の認可がストップした際にも、中国産のゲームが日本市場になだれ込んできました。中国市場はリスクが高すぎるので、海外を目指すのは当然です」
中国ゲーム企業の海外売り上げは約2兆520億円
クリエイターのレベルが上がっていることで、最近では『原神』や『ミラクルニキ』など中国企業が独自にIPを開発し、世界中でヒットを飛ばし始めた。米調査会社センサータワーによると、昨年の世界のモバイルゲーム売り上げランキングは、1位が『PUBG』、2位に『王者栄耀』、3位は『原神』と、上位タイトルを中国勢がほぼ独占している。日本でも中国ゲームのプレゼンスは高まっており、売り上げトップ100のうち33タイトルが中国のパブリッシャーのもので(2021年第3四半期)、市場の約3割を中国製ゲームが占める。日本人のユーザーの知らないうちに、中国ゲームが入り込んでいるのだ。現状は、中国企業が開発するのはモバイルゲームが中心だが、今後はコンソールゲーム(家庭用据え置き型)でも活発になる可能性がある。前出の高橋氏は言う。「中国のパブリッシャーはモバイルゲームでこれまでさまざまな課金方法を生み出してきましたが、その企画力がコンソールへと向かうでしょう。コンソールは日本が得意としている分野ですが、将来的には、この分野でも日本の優位性が揺らぐ可能性があります」
ゲームも携帯電話や家電の二の舞に!?
なぜ優位性が低下するのか。前出のプロデューサーは日本のゲーム業界が抱える問題を指摘する。「開発コストがひと昔前の10倍かかり、加えて莫大な広告宣伝費がかかるとなると、利益を出せるのは一部の大手企業だけ。その大手企業とて、売れる可能性の高い無難な作品しか作らない。私は若い日本のクリエイターに、本気でゲームを作りたいなら中国企業に入れと言っています」最後に高橋氏はこう危惧する。「今後、中国のゲームはどんどん海外で配信されるでしょう。日本のゲーム企業は続編が好きですが、それだけでは戦い切れない。ガラパゴスのゲームばかり作っていると、家電や携帯電話での失敗の二の舞いになりかねません。私は中国でゲームコンテストを運営していますが、学生がプロと遜色ないゲームを作っています。そういう人たちが、即戦力としてゲーム企業に入る。クリエイターの年齢が日本より圧倒的に若く、世界中の若者のニーズを捉えたゲームを日々、開発しているのです」まずは若いクリエイターの育成に力を入れる必要がありそうだ。
話題の中国ゲーム『昭和米国物語』
今回、同社のCEOである羅翔宇氏に話を聞くことができた。「どのような題材が世界中のユーザーにウケるかを考え、たどり着いたのが日本とアメリカのポップカルチャー。両者をミックスさせ、中国人開発者の視点を取り入れて開発しました。私も含め、1980~1990年代に生まれた中国人は、日本の漫画やドラマ、ゲームの影響を受けてきました。記憶の中にある日本のポップカルチャーを取り入れ、アメリカが日本文化に支配されたら面白い切り口になるのではないかと考えたのです」日本文化にスポットを当てながらも、日本人は関与していない。動画に出てくる日本語も同社の社員が翻訳したという。それでも日本のゲーム好きからの評価は高く、「日本人から評価されてうれしい」と話す羅氏。リリース時期は未定だが、大ヒットの予感だ。
市場で存在感を増す中国パブリッシャー
【「Genshin)」miHoYo(米哈游)】2021年1月1日~12月14日の世界売り上げは18億ドルで、モバイルゲーム売り上げランキングで3位を獲得した。日本の売り上げランキング(2021年第3四半期)でも7位に入っている【「荒野行動」ネットイースゲームズ(網易遊戯)】2017年11月のリリース以来、世界中に熱狂的なファンを抱え、全世界でのDL数は3億を超える。日本の売り上げランキング(2021年第3四半期)では8位に入っている【「パズル&サバイバル」37Games(三七互娯)】アメリカでの人気が高くリリースから1年たたずに世界売り上げが約198億円を突破。日本では2020年12月にリリース。2021年第3四半期のDLランキングで9位に入った【「ミラクルニキ」Papergames(蘇州叠紙網絡科技)】ニキシリーズの3作目で世界での累計DL数は1億超。日本語版には、花澤香菜などの人気声優が出演している。2021年3月には、続編の『シャイニングニキ』がリリースされた【「王者栄耀(Honor of Kings)」TiMi Studios(天美工作室群)】2021年1月1日~12月14日の世界売り上げは28億ドルで、モバイルゲーム売り上げランキングは2位。中国国内でもファンは多く、昨年に中国政府系メディアから名指しで批判された<取材・文/大橋史彦 写真/時事通信社>