mi-mollet(ミモレ)
高齢者における「歩けない」という問題を通すと、高齢者の疾病や社会的なニーズの複雑性が理解できます。例えば、20歳の人が「歩けない」という理由で病院を受診したとします。その多くはケガによる「捻挫」や「骨折」といったものである可能性が高いと思います。また、歩けなくなった理由は単一のものであることがほとんどだと思います。そのような場合、「再び歩けるようにするためにはどうすれば良いか」と言えば、その原因を修復すれば良いというシンプルな考え方になります。「足の骨折」が原因であれば、骨折の手術をして、リハビリをすれば、また元通り歩けるようになる確率が高いでしょう。もちろん、病気によっては回復が難しいものもあるのですが、有効な治療があれば、元通りに回復する可能性が高いと思います。 一方、膝や目にも病気を持つ80歳の人の場合には、そのようにはならないかもしれません。 まず、同様に「足の骨折」で入院となった場合を考えてみましょう。この場合にも、「足の骨折の手術をすればすぐに歩ける」と患者さん自身もご家族も思われているケースが多いのですが、残念ながらそうはいかない可能性も考えておかなくてはいけません。なぜなのでしょうか。その答えは、骨折に至った背景を考えると見えてきます。
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患者さんが転んで足を骨折したとして、転んだ背景には、実は肺炎などの感染症があって、ふらついていたのかもしれません。また、感染症を発症する以前にも、膝には変形性膝関節症があり、目には白内障があり、膝の機能も視力の低下も一因となって、大きな怪我につながってしまった可能性もあります。そんな場合には、足の骨折を治すだけではなく、肺炎の治療も必要になりますし、もしかすると、膝や目の治療もしなければ、安定して歩けるようにならないかもしれません。また、そうしているうちに入院が長引いてしまい、歩く機会が減って筋肉が弱ってしまいます。1週間入院すると回復するのに1カ月、2週間では2カ月かかるなどと言われることもありますが、一瞬の出来事がきっかけで、ギリギリで維持していた体のバランスが崩れ、元通りに回復するのが難しいということがありえます。このため、入院後には、元の自宅での生活には戻れず、介護の調整やリハビリ施設への転院が必要になったりすることも珍しくありません。一回の入院というイベントをきっかけにして、生き方が大きく変わってしまうことがあるのです。 あるいは、全く足が悪くなくても、心臓が悪く、歩いていると息切れがしてしまう、といった理由で歩けなくなってしまうこともあります。こうした場合には、骨にも筋肉にも何も問題がなくても、心臓が原因で「歩けない」が起こります。 「歩けない」という場合に、「足が悪いのかな」という発想だけではなく、心臓はどうか、肺はどうか、あるいは脳はどうかといったように、様々な臓器の問題の可能性を考えながら、アプローチする姿勢も求められることになります。構成/中川明紀写真/shutterstock
山田 悠史