市場の発展段階を「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階で分けてライフサイクルを考えていく
経営の要諦であるヒト・モノ・カネを体系的に学ぶことができるビジネススクール。多くの社会人にとってビジネスを学べる場として重宝されています。そんなビジネススクールの中でも、ビジネスの創造や社会の変革に挑戦する高い志を持ったリーダーを多く世に出しているグロービス経営大学院(MBA)。【関連画像】「DX」や「M&A」は需要を増している成長期、「多角化」は伸びが鈍化している成熟期、「製造ライン改善」は減少傾向にある衰退期 その現役・実務家教員たちが、ビジネスパーソンに必須のビジネスフレームワークやマインドセットのコンテンツをお届けします。 第4回はPLC(プロダクトライフサイクル)がテーマ。あるプロダクト(製品やサービス)の市場の発展段階を示すもので、その発展段階に合わせてマーケティング戦略や事業戦略の指針にしようというものです。これらの戦略策定に携わる人にとっては必須のフレームワークといえるでしょう。これを実務でどのように取り入れていくといいのか解説していきます。●PLCとは PLC(プロダクトライフサイクル:Product Life Cycle)は、時間を横軸、売上高を縦軸として、市場の発展段階を「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階に分けたものです。図にすると通常はS字型のカーブを描きます。それぞれの段階で、プロダクトと利用方法についての顧客の理解度の違い、競合の強さの違い、マーケティング組織の発達段階の違いなどにおいて特徴が見られます。それに伴ってマーケティング戦略課題が異なってくるため、それぞれのステージに見合ったマーケティング戦略や事業戦略を策定する必要があります。 それぞれのステージの特徴を簡単に説明しましょう。(1)導入期 あるプロダクトの市場の発展における初期段階です。この段階ではまだ売り上げは小さく、競合も多くありません。新しい技術によって市場が創出されるケースも多々見られます。最近であればメタバースなどがその例といえるでしょう。 この段階では、プロダクトの使用方法や従来品との違いを顧客に啓発することが大切となります。企業にとっては、いち早く初期の需要を創出することが求められます。特にファーストムーバーアドバンテージ(先行者利益:最初に市場シェアを取ったプレーヤーが優位に立つこと)が生じやすいビジネス(例:SNSなど)では、この段階で一気にシェアを取ることが非常に重要となります。(2)成長期 新しいプロダクトが市場に浸透し、市場規模がどんどん大きくなる段階です。それに伴って多数の競合が市場に参入し、競争は激化していきます。市場も細分化され、特定のセグメントに合わせたプロダクトが生み出されることもあります。 この段階では、自社ならではの特性を打ち出し、他社のプロダクトとの差別化を図ることが一般的です。また、1種類のプロダクトのみを提供するのではなく、ラインアップを拡充することもよく行われます。飲料であれば多くのフレーバーの製品を出すなどです。近年では炭酸水などでそうした状況が見られました。(3)成熟期 どのようなプロダクトであれ、いつまでも成長が続くわけではありません。グローバルに目を向ければまだまだ成長の余地があるケースもありますが、特定の市場(例:日本の国内市場)については、ある時点で成長は止まります。市場が成熟期に入ると、多くの場合、新規参入は減り、業界構造が固定化する傾向が高くなります。近年ではスマートフォン端末などがその例といえそうです。 市場に踏みとどまった企業の目標は市場シェアの維持、あわよくば拡大となっていきます。また、成熟期をなるべく引き延ばすことも大切です。例えば自動車メーカー各社は、モデルチェンジなどを行うことで需要の掘り起こしを狙っています。一方、小規模な下位企業は生き残ることが第一目標となります。なお自国市場は成熟したとしても、海外に成長市場があるのであれば、そこでのシェア獲得を狙うということもよく行われます。(4)衰退期 市場全体の売り上げが下がっていくフェーズです。市場シェア上位企業、あるいは特定のニッチ市場で存在感を示せている企業は生き残れますが、それ以外の企業は撤退していきます。市場シェア上位企業は比較的少ない投資の割にキャッシュを得ることができるようになります。そしてそのキャッシュをそのプロダクトに再投資するのではなく、自社の新規事業に振り向けるということも多くなります。 なお、日本では利益が出ている場合、いきなり撤退というケースは少ないですが、利益にシビアな欧米企業の場合、まだ利益が出ていても成長が鈍化したということで事業を売却することがあります。昨年、紅茶の「リプトン」事業を売却した英蘭ユニリーバなどがその例です。 市場が衰退する理由は突き詰めれば「ニーズが減った」ということですが、顧客の根源的なニーズがなくなるというケースはあまりありません。もちろん、天然痘ワクチンのように、本当に根源的なニーズが消えた例もありますが(日本では1950年代に天然痘は撲滅)、それは珍しい事例です。それよりも大きな理由は、その根源的なニーズを満たす別の形のプロダクト、いわゆる代替品が登場したというケースがほとんどです。 例えば人々の「思い出を画像として残したい」「記録を画像として残したい」という根源的なニーズは消えないでしょう。しかしそれを満たすプロダクトが銀塩フィルムである必要性はありません。銀塩フィルムは1990年代ごろから一気に衰退期に突入しましたが、その理由はデジタルカメラという代替品の登場にあります。ガラケー(従来型携帯電話)がスマートフォンに代替されたのも同様です。またコロナ禍の後どうなるかはまだ不確定ですが、海外出張に伴うフライトや宿泊は、かなりの部分オンライン会議に代替されて戻らないという見方もあります。企業は往々にして目の前の同業のライバルの動きに目を奪われがちですが、市場を衰退に導くのはむしろ他業界から登場した代替品であるという点には留意すべきです。