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秋吉 健のArcaic Singularity:巨大IT企業の野望と挑戦。GoogleやAppleを独自SoC開発へと傾倒させた「夢」とそのリスクを考える【コラム】 - S-MAX

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秋吉 健のArcaic Singularity:巨大IT企業の野望と挑戦。GoogleやAppleを独自SoC開発へと傾倒させた「夢」とそのリスクを考える【コラム】

2021年10月24日11:25 posted by 秋吉 健list
巨大IT企業の独自SoC戦略について考えてみた!
既報の通り10月20日(日本時間)、Googleが新型のスマートフォン(スマホ)「Pixel 6」および「Pixel 6 Pro」を発表しました。日本国内では10月28日よりGoogle ストアや各移動体通信事業者(MNO)より発売が予定されており、現在それぞれのオンラインショップおよび実店舗にて予約を受付中です。Pixel 6シリーズで最も大きな話題となったのは、その心臓部であるSoC(チップセット)です。ついにGoogleもSoCを自社開発し、「Google Tensor(グーグル・テンサー)」という名称で発表しました。Google Tensorを搭載したPixel 6の性能は、Qualcomm製SoCを採用した前機種「Pixel 5」シリーズと比較し、CPU性能で80%、GPU性能では370%も高速であるとしています。巨大IT企業が独自SoCを開発……と聞くと、思い出すのはAppleでしょう。Appleも10月19日(日本時間)に新型のMacBook Proシリーズを発表しましたが、その心臓部には独自開発のSoC「M1 Pro」および「M1 Max」が採用されています。そもそも、AppleはiPhoneシリーズにおいても「iPhone 4」から自社開発SoC「A」シリーズを採用しています(iPhone 4には「A4」を採用)。GoogleやAppleは、なぜコンピュータデバイスの基本となるSoCから自社で作ろうとするのでしょうか。そしてまた、その方向性や戦略にリスクはないのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は巨大IT企業が描くチップセット戦略とそのリスクや未来像について考察します。巨大IT企業が目指す世界戦略の未来とは■夢を実現させるために独自SoC開発へ走った2社初めに、GoogleやAppleのスマホやチップセットの歴史を紐解いてみましょう。Android OSを作っているGoogle自身によるプロダクトのスマホの歴史は意外と長く、古くは2010年10月発売の「Nexus One」まで遡れます。当時はGoogleがハードウェアメーカーに発注するかたちで製造されるOEMブランドでしたが、「純粋なAndroidとしてのUXを目指す」ことを掲げ、事実上のリファレンス端末のような位置付けでした。その後、Nexusシリーズはタブレット製品なども登場し、Android OS搭載デバイス普及の旗印として活躍しますが、2016年にGoogleの新たなスマホブランド「Pixel」シリーズが登場することで、置き換わるようにしてその役目を終えました。2010年発売「Nexus One」。製造元はHTCで日本未発売NexusシリーズとPixelシリーズではその戦略が大きく違います。Nexusシリーズは前述の通りリファレンスとしての位置付けが大きく、先進性というよりも「新たなスマホの基準を作る」という目的に重点が置かれていました。一方でPixelシリーズでは、最先端の性能や機能を盛り込んだスマホシリーズという位置付けです。それでも登場当初は比較的リファレンスに近い「ハイスペックだがシンプルなスマホ」という印象でしたが、それもシリーズを重ねるほどに最先端・最新鋭といったイメージへ置き換わり、ついにPixel 6で自社SoCを搭載した超高性能スマホへと変貌したのです。Pixel 6シリーズの発表でも、SoCの性能の高さにフォーカスした説明に多くの時間を割いていたAppleは、かなり早くから自社SoC戦略に切り替えていた企業です。初代iPhoneやiPhone 3Gなどではサムスン電子製のSoCを採用していましたが、前述のように2010年に発売されたiPhone 4から自社SoC「A」シリーズの採用を始めました。iPhoneの基本性能の高さを強く主張し始めたのもiPhone 4からです。その後、iPhoneは現在に至るまで新型機種の発売に合わせて毎年SoCを開発し続け、現在は「A15」シリーズまで来ています。またAシリーズはiPhoneのグレードやiPadなどに合わせて性能も分化し、それぞれのプラットフォームに合わせた製品が登場しています。WWDC2020より。AシリーズのCPU性能は、現在までに当初の100倍以上にもなっているそしてAppleは2020年からパソコン(PC)向けでも自社SoCの採用を始めました。それが「M」シリーズです(発表当初は「Apple Silicon」と呼んでいた)。Appleが自社SoC採用に踏み切った背景については過去のコラムでも考察していますが、その最大の要因は「既存のCPUやチップセット(Intel CPUとそのチップセット群)では求める性能を得られなくなった」という点にあります。【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:技術は続くよどこまでも。アップルのSoC「Apple Silicon」誕生の裏側から技術開発競争と市場競争の関係について考える【コラム】AppleはMシリーズについて、ひたすらにその電力効率(ワットパフォーマンス)の高さをアピールしており、先日発表された「M1 Pro」おおび「M1 Max」では、ピークパフォーマンスにおいても他社製CPUと比較して圧倒的な性能である点を強調していました。つまり、GoogleもAppleも独自SoC戦略に舵を切った理由も目指す未来も同じです。「自分たちが描く理想のモバイルデバイスに既存のSoCでは辿り着けないから」なのです。夢を実現できる道具がないなら自分たちで作ってしまえ、という発想です。M1 Pro/M1 Maxは他社製CPUと比較して低消費電力でありながら高性能であると強調する■SoC開発のジレンマに陥ったサムスン電子しかしながら、この戦略と理想には大きなリスクが伴います。それは「目指した性能を得られなかったら(もしくは得られなくなったら)どうするのか」という点です。そもそも、SoCを自社開発せず部品として発注・調達することのメリットは誰もが知っています。利益を乗せられた他社製品を購入するほうが、研究・開発や製造にかかるコストよりも圧倒的に安いからです。SoCとは、一回開発したらそれで終わりではありません。むしろ一度研究・開発を始めたら半永久的に開発し続け、時代に合わせた最先端の技術や性能を維持し続けなければいけない「地獄」が始まります。それは製品自体の開発に留まりません。ファウンダリ(工場)を自社で持つのかファブレス(外部委託)にするのか、その流通を自社のみに限定するのか他社にも供給をするのかといった、さまざまな問題が生まれます。莫大な開発コストや投資がかかる上に、敢えて自らSoCの開発戦争へと身を投じる覚悟があるテクノロジー企業など、世界にはそれほどありません。QualcommやIntel、AMDといった超巨大半導体製造企業へ新たに戦いを挑もうという企業は、もはやGoogleやAppleほどの力を持つ企業のみだろう自社SoCの開発や実装の夢を実現し、そのリスクで窮地に立たされている企業があります。サムスン電子です。サムスン電子は半導体製造企業としては未だに世界最高クラスの最先端企業であり、その成長に不安要素はほとんどありませんが、自社SoCのスマホへの投入という点では頓挫しかかっています。かつて同社のスマホ「Galaxy」シリーズには、自社開発のSoC「Exynos(エクシノス)」シリーズが搭載されていました。サムスン電子はそもそも半導体製造によって成長した企業であるため、SoCの製造はむしろ「本業」だったからです。性能がすべてのSoC開発。その競争に終わりはないサムスン電子は自社のフラッグシップスマホへExynosシリーズを採用し続けてきましたが、5G通信への対応が追いつかず、現在はQualcomm製のSnapdragonシリーズやMediaTek製のSoCなどを主に採用しています。性能面でも他社製SoCに一歩譲るようになり、非常に苦しい戦いを続けています。2021年1月には5G対応の「Exynos 2100」を発表し、海外の一部の地域では「Galaxy S21 Ultra」などで採用されましたが、米国や日本といった性能を重視する地域向けの同名製品にはSnapdragonシリーズを採用しており、基本性能で劣っていることを自ら表明しているような状態となってしまいました。実際には体感できるほどの性能差があるわけではないことが有志のテストによって判明していますが、同じ機種名で地域によって搭載SoCが違うというのは明らかにブランドイメージ(スマホとしても、SoCとしても)へのマイナスです。自社SoCをすべての自社製品に搭載できない背景には、世界的な半導体不足なども影響を与えているのかも知れません。しかしながら、いずれの理由にしろ地域によって搭載SoCを変えなければいけない理由がそこにあるということです。フラッグシップSoCを開発していながら自社のフラッグシップスマホに搭載できないのはどんな心境だろうか■覇権企業の描く未来GoogleもAppleも、既存の半導体製造企業が舌を巻くような性能のSoCを次々と発表し、飛ぶ鳥を落とす勢いです。しかしその背景には、これら2つの企業ほどの体力(資金力)や開発力がなければ実現し得なかったという現実があります。とくに、GoogleやAppleにはモバイルプラットフォーマーであるという非常に強いアドバンテージがあります。ソフトウェアやサービスで天下を取った企業が、今度はハードウェアでも天下を取りに来たのです。他企業にしてみればこれほどの脅威はありません。世界のモバイルインフラを牛耳る超巨大企業だからこそ出来たSoC開発。逆に言えば、この2つの企業以外には手を出せない世界でもあります。今はまだビジネスコンピューティングにおける半導体製造の世界はIntelやQualcommといった企業が中心ですが、10年後の世界は全く予想がつきません。もしかしたら、主要なコンピュータデバイスがAppleとGoogleのSoCを搭載している未来もあるかもしれません。この小さなチップ1つで、世界が変わってしまうかもしれない記事執筆:秋吉 健■関連リンク・エスマックス(S-MAX)・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter・S-MAX - Facebookページ・連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAXTweet
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