2018年サムスン電子は50対1の株式分割を行った。
これにより2017年末約14万人だった株主数は、2020年の「東学アリブーム」に乗って(「アリ」とは、個人投資家のこと)、504万人(2021年末)に増えた。
韓国の人口が約5000万人なので、10人のうち1人はサムスン電子の株主ということになる。
このように「国民株」となったサムスン電子株は、2016年11月、2017年10月、2021年1月の3回、破格の株主還元政策を打ち出した。
2016年には3兆1000億ウォンだった定期配当金を2021年に9兆8000億ウォンへと3倍に増やした。また、2021年4月には、10兆ウォンの特別配当もあった。
韓国の企業は、配当金を渋る会社が多く、小口の株主を無視しできるだけ内部留保を増やそうとする傾向があるなかで、サムスン電子は率先して配当金を増やして株主に還元している。
2021年4月の特別配当をした理由は、サムスン電子株を多く持っている李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長らが、故人となった李健煕(イ・ゴンヒ)会長の相続税を負担するためだともいう。
サムスン電子が今年の初めに新しく「ギャラクシーS22(スマホ名)」を発売した。
「ギャラクシーS22シリーズ」は、歴代最高の性能を掲げ、大々的に宣伝したが、「GOS」問題にぶつかった。
「GOS(Game Optimizing Service)」とは、ゲーム最適化サービスのことで、2022年2月25日に正規発売したギャラクシーS22シリーズがこのGOS機能を義務付けしたことから議論が起きた。
GOSは、機器を使用するユーザーが高仕様、高画質ゲームを実行する時に活性化されるアプリ(基本搭載)で、自動で秒当たりのコマ数やGPU(グラフィックス処理装置)性能を調節するなど、意図的にスマホの性能をダウンさせて発熱やバッテリーの消耗を最小化する装置だ。
このGOSは、2016年から存在していた。
しかし、以前まではGOS機能を迂回する有料アプリなどを使って、非活性化させることができた。
今年発売されたS22シリーズに適用されたOS「One UI 4.1」は、GOS搭載を義務付けし、迂回経路も遮断した。
そんなことを知らないユーザーたちから、性能制限がS22シリーズで大変厳しくなり、高画像のゲームはバグがしばしば発生してゲームを楽しむどころではないというクレームが相次いだ。
ネットのIT同好会サイトなどで、ギャラクシーの新しいスマホが宣伝していたほどの性能ではないと噂が立ち、2022年3月4日、GOSを通じて性能が低下した原因を分析した。
その結果、ゲームに分類されるアプリのGPUスピードを故意に低下させる一方、性能テストでは元のGPUスピードになるよう調整していた疑いが生じた。
クロス・プラットフォーム・ベンチマーク・ツールである「Geekbench」でそうした不正がないか調査した結果、事実と判断され、サムスン電子のギャラクシーSシリーズのうち、ギャラクシーS10、S20、S21、S22製品群をベンチマークリストから外した。
では、なぜサムスン電子はこうした姑息なことをしたのか。
まず、サムスン側の言い分は、モバイルゲームをする場合、発熱が多くなりユーザーの安全性にかかわるという。
サムスンには、2016年に発売したスマホ「ギャラクシーノート7」が爆発し、リコールした痛い経験がある。
そこで「安全」を考えて発熱量の上昇を回避したいという。
しかし、徐々に発熱が多くなると、性能が落ちるというならまだ分かる、GOSはゲームを始めるとすぐに性能を落としてしまう。
さらには、ゲームだけでなく、インスタグラムやLINEのようなコミュニケーションツールを使う時も性能が落ちるという。
ユーザーは、「消費者を欺瞞している」と批判している。
特に、最新のギャラクシーS22を購入したユーザーは、「ポルシェを時速100キロで速度制限したらあなたは買いますか?」と訴えかけた。
サムスン電子GOS問題に集団訴訟を準備する団体には3月4日基準で1300人が加入したという。
また、払い戻しを要求したり、予約をキャンセルすることで、ボイコット運動を展開している。
さらに、3月16日に行われたサムスン電子の株主総会では、株主たちがGOS問題の責任者であるノ・テムンMX事業部長を社内理事に選任する案に対して反対票を投じた。
これによりグローバル市場でのシェアにもしわ寄せがきている。
米国では、集団訴訟専門のローファームである「トップクラスアクション」を通じてニュージャージー州連邦裁判所に訴訟が提起されている。
訴訟の対象は、ギャラクシーS22シリーズとギャラクシーS21 、ギャラクシーS20など、Geekbenchから退出させられたモデルである。
2021年サムスン電子のグローバル市場のシェアは、前年同期比6%増の2億7100万台の出荷台数を記録し、世界シェアは19.45%で1位。
一方、2位のアップルは、前年同期比18%増の2億3790万台を出荷し、世界シェアは17.1%となった。
サムスン電子は、グローバル市場でまだシェア1位を確保しているものの、アップルとの差はどんどん狭まっている。
サムスン電子株は国民株となっただけに、サムスン電子の株主総会は一目置かれることになる。
特に、今年の株主総会では、ハン・ジョンヒ副会長が「メタバースやロボットなど、新事業発掘を通じて成長エンジンを拡大していく」と発表した。
さらに、「新事業発掘の第一歩はロボット事業」と熱弁をふるった。
「多様な領域でロボット技術を蓄積し未来世代が日常に同伴するロボットを経験できるよう先陣を切る方針だ。ロボットを顧客と接する新しいチャンスの領域として考え、専担組織を強化し、ロボットを新事業として推進している」という。
サムスン電子は、2021年に組織改編を通じて既存のロボット事業化タスクフォース(TF)をロボット事業チームに格上げするなど、ロボット産業育成に拍車をかけている。
2021年、消費者家電部門内で、ロボットTFを新設して1年もたたないうちに常設組織として改編した。
8月には李在鎔副会長がロボット産業を含んだ未来新事業分野に今後3年間で240兆ウォンを新規投資すると発表した。
世界最大家電・情報技術展示会であるCESで2019年にサムスン製ロボットを発表して以来、毎年自社のロボットを披露し続けてきた。
サムスンがロボット産業に乗り出すという鶴の一声で、韓国の株市場ではロボット関連株が連日上昇し、サムスンパワーを遺憾なく発揮している。
これまで、文在寅政権の下では、朴槿恵前大統領への賄賂疑惑などをかけられ、さらに精神的な支えであった李健煕会長の死などにより、サムスン電子はあまり表立ったことができなかった。
しかし、これから新しい政権に替わることで、サムスン電子の本領発揮になるか楽しみである。